ジャンケンやEカードのルールを単純化し、 原作の持ち味であった心理描写に深みがなくなってしまった──のは、まあいいだろう。
映画でマンガの魅力を100パーセント再現するのは土台ムリな話。なので、はなっからそこを期待しちゃいないし、原作のファンとしては「カイジ」の世界が実写で見られることに楽しみを見出したほうがよい。
そう考えると、エスポワール、鉄骨、Eカードなど、舞台装置や小道具の存在感はすばらしい。カイジ役の藤原竜也をはじめ、配役もよい。
遠藤さんが“性転換”してしまったことに一抹の不安はあったが(カイジは“女人禁制”なので)、終盤の展開をみると、これはこれでアリかと思う。
ただ、遠藤さんが女性になったのなら、「地下の強制労働施設に送られることはないんじゃね?」という違和感をきっかけに思考の糸が紡ぎ出されていく。
原作と同じセリフを映画でもしゃべっているわけだが、映画化にともなう設定の変更によって 、そのセリフが死んでしまっているところがあちこちに見受けられるのだ。
冒頭のジャンケンにしても、制限時間を短縮し、電光掲示板をなくすのはよいとしても、テーブルにはそれぞれ黒服を配置し、やはり「チェック」「セット」「オープン」の手続きは厳格におこなうべきだ。
映画では、こういったディティールがおざなりで、ゲーム全体にグダグダ感が漂っているため、「負けたら地獄行き」という緊迫感がない。
「『明日からがんばろう』という者に明日は来ない」というセリフに説得力を持たせるには、「今日はいいか」と堕落する場面がなければなるまい。
ほんとうにセリフの一行を削るか追加するかで十分改善できるように思えるのだが……。
製作過程でいろいろな悪条件はあったと想像できるが、脚本・演出の詰めの甘さは非常にもったいない。
続編の公開も決定しているようなので、そのあたりが改善されていることを期待したい。
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