とある幼児の死──それは人々のちょっとした自己中、身勝手さが招いた悲劇だった。
「自分の行為によって人が死ぬかもしれない」など、誰も思っていない。
その意味で誰にも責任はない。
でも、その中のひとりでも、もうちょっとだけ倫理観を持ち合わせていたら、ほんの少しでも罪悪感を感じていたら、子どもは死ななかった。
だから、決して法で裁くことはできないが、これはれっきとした“殺人”なのだ。
ハリウッド映画で言えば『ファイナル〜』シリーズや、『バタフライエフェクト』のような、〈風が吹けば桶屋儲かる〉式の小説版といった趣。
貫井徳郎ならではの重厚な筆致で、冷酷でいながら、しかし、残された家族に寄り添う作者の視線に温度を感じる良作だ。
困惑するのは、むしろ読後で、この作品をどう受け止めらよいのかという疑問が頭をよぎる。
「社会に生きる者として、これからもう少し〈倫理的〉に生きよう」という思いが沸いてくる気がするが、それはおそらく作者の意図ではあるまい。
いや、べつに作者の思惑など関係なく、読者それぞれが何かを感じ、考えればよいと思うが、では自分としてはどう思うのか──という答えがなかなか出ない。
答えを出さなくても別に何かが起こるわけではない。すると今度は「果たしてそれでよいのか」などという自問自答が始まってしまう。
読後に読者を困惑させるという意味で、なかなかの問題作でもあるのだ。
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