貫井徳郎『空白の叫び(上)(中)(下)』──〈心の闇〉を持つ者は誰か?

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はい。〈心の闇〉でございます。
奇しくも、ちょっと前に読んだ貴志祐介『新世界より』三部作は、当然〈心の闇〉が読めると思っていたのに、実際はちがっていたので、その部分だけは残念だった、と前のエントリーでコメントしました。
考えてみると、貫井徳郎も〈心の闇〉の作家だったのを思い出しました。
というより、中巻の帯に〈心の闇〉と書かれていますし、本文にも出てきます。

心の闇──、便利な言葉だと久藤も思う。それですべてに説明がついた気になるではないか。少年は心に闇を抱えていたのだ。闇は社会が生み出した病巣だ。闇を抱えているから犯罪に走る。普通の人は闇など抱えていない。だから安心だ。めでたしめでたし。

そして、『空白の叫び』は、(これも『新世界』と同様)文庫本3冊にわたって、少年たちの〈心の闇〉が描かれます。
大雑把にいうと、上巻で少年たちの犯罪を行なうまでの軌跡、中巻で少年院での“更生”の模様、下巻で退院後の少年たちの行動を描いています。
少年たちは“殺人”という一線を超えてしまうわけですが、そこに至るまでの過程は私たちも十分に“納得”できるものであり、“普通の人間”から“殺人者”への移行は極めてスムーズです。
これはべつに「わかる、わかる。少年たちの気持ちに大いに共感できるぞ」などという上目線からの感想ではありません。そんな生やさしいものではなく、上記の「久藤」の言葉を借りれば、私たちも〈心の闇〉を持っているということなのです。
そこにこの作品の恐ろしさがあります。
ただ、下巻の少年たちの行動や、ラストのどんでん返しは、物語としてのおもしろさはともかく、あまり“共感”できるものではありませんでした。
これは深読みすれば、“共感”できるものにしてしまうと、小説の世界と私たちの現実世界の〈心の闇〉が地続きになってしまうから、あえて両者を断絶させるために虚構性を高めた、と思えなくもありません。

【空白の叫び】
著者:貫井徳郎
文春文庫
[上]¥710 [中]¥750 [下]¥750

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