KARA『KARA BEST CLIPS』──感謝する。その暴力的な愛おしさに

★テーゼ1★ ビデオクリップは暴力的である

このブログを初期のころからお読みの方はご存知かもしれないが、ここは「歌って踊るおねいさん取扱店」でもある。

ところが、ここ数年は、その手の作品をほとんど取り上げていない。

なぜか。

年齢的な嗜好の変化もあるかもしれないが、「暴力的な表現」のインパクトに対する〈心のショック・アブソーバー〉が弱ってきているせいもあった。

つまり、自分の中の感受性の一部が失われてしまったのだ。

いま「暴力的な表現」と書いたが、表現はことごとく「暴力的である」といえる。

ホラー監督として世界的に知られる映画監督・黒沢清氏は、なぜ暴力をテーマに映画を撮るのかという質問に対し、「映画だから」と答えながら、こう述べている。

直接目と耳を刺激してくる映画というものそれ自体が、そもそも暴力的魅力に満ちているわけですし。(『黒沢清の映画術』新潮社)

ここでは、「映画」について語っているが、同じ映像と音の表現である「ビデオクリップ」にもあてはまるだろう。

★テーゼ2★ 「さん」の女、「ちゃん」の女

襟野未矢氏の著書に『「さん」の女、「ちゃん」の女』というのがある。

「さん」の女は、まわりから頼りにされ、ひとりでも生きていけそうなイメージの女性、「ちゃん」の女は反対に、まわりに頼り、可愛がられながら生きていくような女性のことである。

襟野式分類法はあくまで実社会の女性の話なので、このブログではこれを敷延して、表現上の女(虚構の世界の女)に対して、「さん」の女=攻撃型(プッシュ・タイプ)、「ちゃん」の女=守備型(プル・タイプ)と呼ぶことにする。

★テーゼ3★ KARAはどっち?

実際にビデオクリップを鑑賞する前のKARAのイメージは(そして一般的な理解も同様だと思うのだが)、「さん」の女=攻撃型(プッシュ・タイプ)であった。

ハイソな衣装を着こなし、これ見よがしに美脚を披露しながら、歌って踊る。 まさに攻撃であり、暴力的。 自分にはとうてい受け入れられない。 そう思っていた。実際にビデオクリップを再生するまでは、だ。

★テーゼ4★ KARAは「さん」と「ちゃん」を兼ね備えるハイブリッド・タイプ

『KARA BEST CLIPS』に収録されている楽曲は、前期と後期に大別できる。 「Rock U」「Pretty Girl」「Honey」「Wanna」が前期、「LUPIN」「ミスター」「JUMPING」が後期である。 そして、前期=「ちゃん」の女、後期=「さん」の女に対応する。

日本でよく知られているのは、「LUPIN」「ミスター」あたりだろうから、KARA=「さん」の女=攻撃的(プッシュ・タイプ)という一般に流布するイメージは間違っているわけではない。

しかし、前期はあくまで「ちゃん」の女=守備型(プル・タイプ)なのである。

とくに1曲目「Rock U」において特徴的なのだが、衣装、セット、メイク、表情など、きわめてカジュアルである。「LUPIN」に象徴される一般的なイメージとは真逆と言ってよい。

つまり、KARAはベースに「ちゃん」があり、その延長線上に「さん」があることを踏まえなければ、“KARA学”に入門したことにならないのだ。

とはいえ、「さん」だろうが「ちゃん」だろうが、それ自体はたいして重要ではない。どちらが良い悪いの問題ではないからだ。

「ちゃん」の女は、暴力的ではない。プル・タイプすなわち表現の押し売りはしない、ということが自分にとって最重要だ。 なぜなら、KARAが全編にわたり「さん」の女であったなら、おそらく受け入れられなかったかもしれないからだ。

でも、前半は押さない。後半で初めて押してくる。これなら“リハビリ中”の心にもやさしい。 段階を踏めば、「さん」の女としての攻撃にも耐えられるようになる。

その貴重なきっかけをKARAは与えてくれたのだ。 だから今回言いたいのは次のひとことだけだ。

〈感謝したい。その“暴力的な”愛おしさに〉

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