《夢》を文章化するのと、映像化するのとでは、どちらも大変だと思うが、表現されたものを受け取るのは、「映像」のほうが“楽”なのではないか。
この『パプリカ』は映像、それも実写ではなく、100%制作者のイマジネーションで構成されているアニメであるから、何でもありという意味で、《夢》の映像化は簡単のように思える。
しかし、映像化は簡単でも、映像化したものをひとつの《作品》として定着させるのは至難の業だ。悪夢とか妄想を情熱のおもむくままただ羅列するだけでは、見ているほうが何が何やらわからない。
そこで、『パプリカ』は、宮崎アニメを長年支えてきたアニメーターを作画監督に起用することで、卓越した映像制作能力を《情熱》のおもむくまま最大限発揮。その一方で、現在日本で考えうる最高の実力派声優陣を取りそろえ、《理性》を発露させるために、登場人物の口から語られるセリフにも重きを置いている。
その結果、見ている側は、アニメーションならではの生理的な快感と、ストーリー展開の醍醐味とをバランスよく堪能できる傑作が完成した。
これまでの今敏の作品は、“地に足がついた”演技が特徴だったが、今回は、宮崎アニメ的なけれん味にあふれているのが楽しい。さらに、林原めぐみの声で「夢が云々」などと語られると、別の作品を想起してしまうが、あちらの《夢》は心地よいもの、こちらは恐ろしいものという違いがあり、そのあたりも実に趣深い。
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- 『パプリカ』(映画)──《夢》を映像化するのと文章化するのはどちらが難しいか?
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