世の中にはびこるゾンビ、ならぬゾンビ映画やゾンビゲーム。それらの基礎となる「ゾンビ」の概念を最初に創造し、その本質をもっとも知り尽くした監督が作ったゾンビ映画の決定版だ。
「ゾンビが出てきて、ああ怖い!」などという映画でないことは、ロメロ作品をひとつでも観たことのある者ならば先刻承知なのであるが、となると、今回の作品でみるべきポイントとは何だろうか。
この『ランド・オブ・ザ・デッド』、いやロメロのゾンビ映画で一貫していわんとすることを一言で表すならば「真の脅威はゾンビではなく人間である」ということであろう。
以前のロメロ作品では、「人間という脅威」を個人レベル、あるいは数十人の集団レベルで描いていたが、今回は、町レベル、いや国家レベルにまで昇華させている。そのため、やや抽象的になりすぎている嫌いがないでもないのだが、奇しくも先日おこった災害を想起し、「ゾンビ」を「ハリケーン」と言い換えるだけで、この作品の本質が明確になってくる。
ゾンビの映画では“お約束”の残酷描写、恐怖描写は、もちろん健在だ。
ただ、残酷さという意味では、以前の作品のほうが上回っていたし、パンフレットで指摘されている「今回はメジャースタジオ製だし、たぶんレイティングの問題があって、いわゆる“寸止めの美学”に徹している」という見方は的を射ていると思う。それでも、ホラー映画としての恐怖度は超一級なのだ。
なによりも、以前の作品に比べストーリー展開、シークエンスのひとつひとつに勢いがある、というのは嬉しい誤算だった。監督の年齢を考えれば、これは評価に値しよう。
「ぜひ次回作に期待したい」と締めたいが、この監督に限っては、そうもいかないところが歯がゆいところだ。
ランド・オブ・ザ・デッド
基本的にホラー映画は好きでないのけれど、唯一の例外が「ゾンビ」もの。この類の映画には当然ながら「むしゃむしゃ」シーンが付きものだが、それ自体が好きなわけではない。不気味な存在にじわじわと追われ、小さな世界に閉じこもる閉塞的な状況。たぶん、この部分が好きなのだ。ホラー、というよりはSF的な部分に惹かれている。
ジョージ・A・ロメロの「ゾンビ DAWN OF THE DEAD」(78年)が個人的にゾンビ映画で最も好…