奥田英朗『最悪』(本)──小石を積み上げた「砂上の楼閣」が崩れ去る快感

この物語の主人公は3人。不況にあえぐ鉄工所社長、家庭問題や勤め先のセクハラに悩む銀行員、ヤクザに弱みを握られたチンピラ。少しずつ綻びを見せていくこの3人の人生・生活が丹念に描かれていく。無縁だった3人の関係が交差するとき、それぞれの人生が「砂上の楼閣」であったことがわかる。「砂上の楼閣」といっても、容積の大きい材料をクレーンか何かを使って構築していくのではなく、この作品の「材料」は、言わば小石。少しずつ少しずつ、途中で崩れ去り、いちからやり直しになりながらも、根気よく積み上げていく。それがクライマックスでガラガラと崩れ落ちるという快感。破滅へのダイビング。このカタルシスを存分に堪能していただきたい。
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【最悪】著者:奥田英朗/出版社:講談社文庫

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コメント

  1. 最高の最悪

    奥田英朗氏の『最悪』、後半は一気に読んでしまった、面白かった。3人の登場人物がそれぞれに追い込まれていく前半はややかったるい感があったが、3人の人生が交錯しだし…

  2. 最悪/奥田英朗

    初めての奥田英朗の本です。
    『ラウンバーナの森』を買うつもりでブックオフへ行ったのに、なくて、急遽この本に決定。
    タイトル通り最悪なコトばかり…。

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