ほんとうは「電子書籍元年」ではない
今年は「電子書籍元年」と言われている。
アマゾンのkindle(キンドル)が昨年に上陸、
アップルのiPadが今年の5月に発売され、
これらの機器が電子書籍のユーザーを増やすことに
貢献するのではないかと考えられている。
「元年」という言葉が使われている理由はわかるのだが、
「電子書籍」の市場そのものは日本にも以前から存在しており、
これらの機器があたかも救世主のように騒がれることに
違和感を覚える。
本や雑誌が売れず、出版業界が不振であることは事実だ。
しかし、そこで
「だったらリアル(紙)ではなくデジタルで出版すればよい」
という思考に流れるのは実は理にかなっていない。
本屋で売れない本がデジタルで出した途端に
ベストセラーになるとは限らない。
(仮にそういう例があったとしても原則にはできない)
かといって今後どうしていけばいいのかは
有効な答えを誰も見出していないのが現状だ。
もちろん、このまま手をこまぬいているわけにはいかない。
このブログでは、「電子書籍」のありかたを
ことあるごとに考察していきたいと思っているのだが──。
「センパイ・プロジェクト」の概要
で、その考察の題材として取り上げるのが、
『フリー』でも『死ねばいいのに』でもなく、
よりによって『センパイ・秘密の恋』だ。
この本は、
学研のティーン雑誌『ピチレモン』のトップモデル
前田希美(まえのん)の実体験とアイディアをもとにした
ロー・ティーンの女の子向け恋愛小説だ。
本屋では「ケータイ小説」のコーナーに
並べられていることもあるし、
実際に中身を見てみると、
横書きであること、
段落の最初が一字下げになっていないことなどから
「ケータイ小説」を単行本化したもののように思える。
現にモバゲータウンの小説コーナーでも読むことができるし、
その意味では「ケータイ小説」に間違いないのだが、
巷の「ケータイ小説」と異なるのは、
最初から単行本で発売することを前提として制作がスタートし
ケータイ版はそのテキスト原稿を流用掲載しているに過ぎないということだ。
(モバゲータウンで連載開始時に単行本の発売が告知されている)
このように、一般的な意味での「ケータイ小説」とは異なるものの
「電子書籍」というものを考えるための
ひとつのヒントになるのではないか。
この本に関するさまざまな仕掛け
(仮に「センパイ・プロジェクト」とでも名づけよう)
を出版ビジネスの視点から考えるとどうなるだろう。
まず、ケータイ版は無料で読むことができるので
コンテンツとしての収益は単行本からしか得られない。
つまり、ケータイ版は
単行本のプロモーションということになる。
また、著者(正確には原案だが)が
雑誌のモデルということもあり
雑誌の特集ページやウェブサイトの特設ページも作っているが
これらも単行本のプロモーションと見ることができる。
デジタルがおもしろかったから紙を買う
単行本は7月1日に発売されたばかりなので
このプロジェクトが成功したのかどうかを判断するのは時期尚早だと思うが、
興味深いのは、モバゲータウンやウェブサイトに寄せられたコメントだ。
そもそも「コメントしたい人がコメントしている」
というバイアスがかかっている点を差し引かなければならないとしても
「ケータイ版がおもしろかったから本を買う」
という書き込みが意外に多く見受けられるのだ。
たしかに、ケータイ版と文庫本とでは結末が異なる
とうたっている。
また単行本の付加価値として
まえのん本人の写真や特別コラムなどの
おまけがついている。
しかしながら、個人的な印象として
これらの付加価値は本質ではない
と考えている。
つまり、あくまで多くのユーザーにとって
「本を買う」というときの「本」とは
リアルなそれなのではないだろうか。
ケータイ小説っぽい作りで
小学校高学年〜中学生の女の子がターゲットである
ということも関係しているはずだ。
この本は小説であると同時にタレント本でもあることから
本人が動画で本の宣伝をするなど、
通常の文芸小説とは異なるプロモーションも行われている。
このあたりはiPadの上陸に象徴されるような
電子書籍の技術の発達を
先取りした実験といえなくもない。
ただ、それがどこまで電子書籍の普及に貢献するのか。
言い方を変えれば、
電子書籍の発展に役立つ仕掛けとは何かを
この機会に真剣に考えなければならないということだ。
先に述べたように今後も
「電子書籍」のあるべき姿を
考察していきたいと思っている。
★ピチレモンネット「センパイ・秘密の恋」特設サイト
http://pichilemon.net/senkoi/
★モバゲータウン「センパイ[E:heart]秘密の恋」
http://www.mbga.jp/.pc/_novel_view?w=17035117
写真点描・札幌花物語 5
この北大植物園、明治期の北海道開発をどう考えるかによって、樹木や草花だけに眼を奪われなくてもすみそうですね。未知の種類、品種、その発見と、ことはひとつになっていますよ…