貴志祐介『新世界より(上)(中)(下)』──テレビゲーム世代には親和性が高いけど…

1000年後の日本。旧世紀の文明は滅び、呪力が支配する世界。

文庫本3冊(400字詰原稿用紙約2000枚)にわたって描かれる世界は、青春物語あり、ミステリーあり、ファンタジーあり、戦争アクションありの痛快エンターテイメントに仕上がっています。

とくに私たち“テレビゲーム世代”には親和性が高く、超大作RPGをプレイしているような、じつに楽しいひとときが過ごせます。

だが、しかし──。

『クリムゾンの迷宮』『天使の囀り』『黒い家』『青い炎』といった貴志作品のファンとしては少し違和感を感じるのも確かです。

貴志祐介は、まあ陳腐な表現ですが、〈人間の心の闇〉を描く作家ではないかと思っています。

『新世界より』でも、〈人間の心の闇〉がモチーフになっているところはあるのですが、あくまでも虚構世界におけるそれであり、現実世界に住むわれわれが持ち得ないものです。

そこがこれまでの作品と異なる部分です。

『クリムゾンの迷宮』などは、設定そのものがゲーム的でありながら、しかしRPGでは表現できない〈人間の心の闇〉が描かれました。

一方、『新世界より』の〈人間の心の闇〉は「じゃあゲームでいいじゃん」って思ってしまうのです。

もちろん、最初に述べたように、もちろん駄作ではありません。それどころか、超一級の娯楽作品であることは間違いないでしょう。

ただ、これまで貴志作品の〈何か〉を期待してしまうと、ちょっと肩透かしを喰らってしまうかも、というわけです。

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