春橋哲史『太陽系を縦断せよ』(本)──往年の本格SFの匂いが漂う本書は<物語>ではなく<ディティール>を読め 2005.05.12 タイトルはスバリ『太陽系を縦断せよ』。ようするに「太陽系を縦断」する話だとすぐわかる。まさに直球。このタイトルに象徴されるように、往年の「宇宙モノ」小説を現代に復活させた正統派の本格SFなのである。もくじを開いてみよう。「第2章 出港」「第3章 事故」「第4章 復旧」……などと、ストーリー展開が
『パラドックス大全』(本)──本質を見抜くための訓練本 2004.11.22 一見、まったくわれわれの人生には関係ないような論理のパズルを愉しむ娯楽本という趣。だが、本書で扱っている考え方は実は日常生活にも役立つのではないかという気がしてくる。“本質”を見抜く目を養うことにおいてだ。われわれは日々さまざまな情報に曝されているが、そこに隠された欺瞞、嘘、偽善を暴く能力を身につけ
東野圭吾『片想い』(本)──東野作品には珍しい「複雑」な話だが…… 2004.10.11 十年ぶりに再会した女は男になっていた。彼女から殺人を告白された主人公は、同級生たちの妻や友人たちとともに、彼女をかくまうことを画策する。他の作家の作品と比べて、込み入った人間関係もないし、奇をてらったトリックもない、というのが東野作品の特徴だと思っていたが、本作はいつになく「複雑」だ。しかし、その
奥田英朗『最悪』(本)──小石を積み上げた「砂上の楼閣」が崩れ去る快感 2004.08.15 この物語の主人公は3人。不況にあえぐ鉄工所社長、家庭問題や勤め先のセクハラに悩む銀行員、ヤクザに弱みを握られたチンピラ。少しずつ綻びを見せていくこの3人の人生・生活が丹念に描かれていく。無縁だった3人の関係が交差するとき、それぞれの人生が「砂上の楼閣」であったことがわかる。「砂上の楼閣」といっても、
衿野未矢『依存症の女たち』『依存症の男と女たち』(本)──「依存症」の相手に向き合う態度に好感が持てる 2004.08.01 就職の相談をしている最中、相手が話しているのを遮ってケータイに出てしまう女子大生。少しでも空腹を覚えるとお菓子やおにぎりなどを口にしてしまい、常に何か食べている状態になっているOL。いずれも、犯罪というわけじゃない。社会的に直ちに「悪」とされるわけじゃない。本人の生命に関わるわけでもない。た
小野不由美『屍鬼』(書籍)──ゲーム『サイレン』の何倍も怖いホラー小説 2004.04.25 三方が山に囲まれ外界との接触をほとんど断っている村。土葬にした死者が墓から「起き上がり」、村人を襲う──。「なんだ、これでは『サイレン』(プレステ2ソフト)ではないか?」と声を上げるも、もちろんゲームの方がこちらをヒントにしている。とはいえ、文庫本全5冊にわたり描かれる「屍鬼」と人間の戦いの
根岸泉『誰にも言えない 特撮映画の舞台裏』(書籍)──「大変だけど楽しい」と思いたいときに読みたい本 2003.09.07 2か月ほど前、年末に公開される『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』の特撮スタジオを取材した。そこで抱いたのは「特撮映画を作るのって、根気のいる面倒な作業だな」という、文字にすると非常に薄っぺらい感想であった。本番が始まるのを待つこと2時間。カメラが回っていたのは10秒ほど。しかもNG。ドッと疲
高倉克祐『世界はこうしてだまされた』シリーズ(本)──事実を見極める目を養うということ 2003.06.15 21世紀になれば、宇宙ステーションに人々がとっくに移住しているのかと思ってた。月にもスペースシャトルでバンバン行き来しているのかと思ってた。仮にそこまでいかなくても、その兆しくらいはあるのかと思ってた。現実にはもちろんそこまでいっていない。だから異星人が地球にやってきて人類と出会う、というの
佐藤正午『ジャンプ』(本)──彼女がデートの最初に「よそよそしい」理由は? 2002.11.10 自分の彼女が「5分で戻ってくる」と言ったまま行方不明になってしまい、その失踪の真実を延々と探っていく。失踪の理由は、極めて低い可能性、それはもう俺が松室麻衣ちゃんと同棲してしまう、あるいは俺が藤本美貴と結婚してしまう、というのよりさらに低い可能性で起こった偶然によるもの、であるように読める。