西村寿行『わが魂、久遠の闇に』──“人肉食い”の衝撃描写より復讐譚の男の“気概”に同調したい

中高生のころの読書体験は人格形成に大きな影響を与えると思いますが、私の場合、星新一、筒井康隆と並んで、貪るように読み倒したのが西村寿行作品でした。 先日、久しぶりに読みたくなって押し入れから引っ張り出したので、そのレビューを書いてみたいと思います。

有名大企業の重役が、幼子を連れた人妻を強姦。コトを穏便にすますため、妻子を自家用飛行機に乗せて説得しようとする。途中、飛行機は極寒の雪山に墜落。救助もなく食料も尽きた搭乗者たちは、子どもと人妻の“人肉”で飢えをしのごうとする。

──とあらすじを書いているだけでかなり“えげつない”のですが、個人的にはこの作品そのものが再読ですし、西村寿行作品を読み慣れた者としては、魅力的ではあるが“衝撃”というほどではありません。

でも、ふつうの感覚では、そうとうにショッキングですよね、これは。 実際、“人肉喰い”(カニバリズム)というのがこの作品のモチーフになっており、その描写はかなり凄惨なものです。

ともすれば、残酷な描写を楽しむだけの醜悪な作品になるところなのですが、西村寿行ならではの重厚な筆致で、人間の本質、人間が生まれながら持つ“業”のようなものをさらけだすことに成功している物語です。

人妻を強姦──もちろん、許されることではないが、ではそういう“衝動”は自分のなかに絶対にないと断言できるのか。

人肉喰い──もちろん、想像するのもはばかれることだが、真の極限状況ではどうか。

……などというように、読者の心の奥底をみずからのぞき見るような、それを強制させらせる作品でもあります。

また“人肉喰い”というのは、あくまで物語のきっかけであって、作品全体は「妻を醜男たちに食われた夫の復讐譚」なのです。

今では、この作品の核となるグロテスクな描写のほうではなく、もう一方の本質である「妻の魂のために戦う夫」のほうに共感したいと思う自分を発見しています。

中高生のころと違って、今の自分はこの夫と同世代。主人公と同じような男の気概、矜恃をオマエは持っているのか──。そう問いかけられている気がします。

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