東野圭吾『片想い』(本)──東野作品には珍しい「複雑」な話だが…… 2004.10.11 書籍・雑誌 十年ぶりに再会した女は男になっていた。彼女から殺人を告白された主人公は、同級生たちの妻や友人たちとともに、彼女をかくまうことを画策する。他の作家の作品と比べて、込み入った人間関係もないし、奇をてらったトリックもない、というのが東野作品の特徴だと思っていたが、本作はいつになく「複雑」だ。しかし、その
『dream party 2』(DVD)──ボーカリストの2分化により失われる一体感 2004.10.11 音楽 たとえば昨年のライブ『dream live 2003』のころに比べれば、それなりに力はついているのかもしれないし、全体的に洗練されているのかもしれない。しかし、歌唱力について見れば、メインボーカリスト3人とその他のメンバーとの差が広がる一方であり、ひとつのグループとしての一体感に欠ける点に違和感
『ファインディング・ニモ』(映画)──CG技術に頼ってない 2004.09.26 映画・テレビ 奇しくも『ディー・プルー』に引き続き、海で暮らす生き物たちを題材にした作品の批評となった。かたやドキュメンタリー、かたやCGアニメ。両極端の方向性を持った2作品ながら、目指すところは同じだ。つまり、映像としていかに魅力的に見せるか、映画としていかに面白く作るか。映画作りにおいて、素人でも
『ディープ・ブルー』(映画)──「自然のありのままの姿」でないところが良い 2004.09.25 映画・テレビ 海で暮らす生物たちの姿を捉えたドキュメンタリー……というだけなら、子供のころ教育番組か何かで目にしているはずだし、大人になってからも同種の番組が放映されているのを見ているはず。しかし、この作品は何かが決定的に違う。「製作7年、撮影フィルム7000時間、ロケ地200カ所」。費やした金と時間がケ
『デッドコースター』(映画)──これぞ正しい人間の殺し方 2004.09.24 映画・テレビ 飛行機の墜落事故、ハイウェイでの大規模玉突き事故を免れた幸運な人々。しかし、実は彼らは<死>の運命から逃れたわけではなかった。<死>のリストに載ったものは必ず死ぬ。手を変え品を変え襲いかかる<死>をかわしつつ、<死>のリストを書き換えるべく、主人公たちが奮闘する……という内容の映画ではあるが、実
『冬のソナタ』(テレビ)──これはラブストーリーではなくホラーサスペンスである 2004.08.23 映画・テレビ 本作品は純愛物語ではなく恐怖物語である。まずこの前提条件を受け入れるところから始めるべし。「ヨン様フィーバー」だの、「今の日本にはないピュアなドラマ」だのといった前評判に惑わされて敬遠していた人も、この「前提条件」を認識することで、楽しみがぐっと広がるってもんだ。この作品を「恐怖の物語」と評する根
『光の雨』(映画)──事件を客観化して本質に迫ろうという狙いはわかるが 2004.08.15 映画・テレビ 1972年に起こった連合赤軍同志リンチ殺人事件を題材にした映画。単純に言えば、『突入せよ!「あさま山荘」事件』(原田眞人監督)の前の物語を、警察の側からではなく彼らの側から描いている。と、「単純に言えば」そうなるのだが、この映画の登場人物は、「連合赤軍同志リンチ殺人事件を題材にした映画」を撮っている
奥田英朗『最悪』(本)──小石を積み上げた「砂上の楼閣」が崩れ去る快感 2004.08.15 書籍・雑誌 この物語の主人公は3人。不況にあえぐ鉄工所社長、家庭問題や勤め先のセクハラに悩む銀行員、ヤクザに弱みを握られたチンピラ。少しずつ綻びを見せていくこの3人の人生・生活が丹念に描かれていく。無縁だった3人の関係が交差するとき、それぞれの人生が「砂上の楼閣」であったことがわかる。「砂上の楼閣」といっても、
『ティアーズ・オブ・ザ・サン』(映画)──この際<マクロ>の視点は捨てて鑑賞せよ 2004.08.08 映画・テレビ 紛争地帯で医療活動をしているアメリカ人医師を救うため、特殊部隊が現地へ向かう。主人公の大尉は、当の医師だけでなく、避難民までも救うことを決意したため、任務は危険な方向へと向かい出す。そもそも『ダイ・ハード4』として企画されていたと聞き、軽いノリを期待していたのだが、予想以上に“重い”のに驚いた。
衿野未矢『依存症の女たち』『依存症の男と女たち』(本)──「依存症」の相手に向き合う態度に好感が持てる 2004.08.01 書籍・雑誌 就職の相談をしている最中、相手が話しているのを遮ってケータイに出てしまう女子大生。少しでも空腹を覚えるとお菓子やおにぎりなどを口にしてしまい、常に何か食べている状態になっているOL。いずれも、犯罪というわけじゃない。社会的に直ちに「悪」とされるわけじゃない。本人の生命に関わるわけでもない。た